Case #7 : AMEX    巨大企業で巻き起こった衝撃的内部変革の嵐

試練 (Challenge):

1   American Express その名前はいまだに燦然とカードビジネス業界では輝いており、米国での大学生の就職したい企業の上位に常にいる。この企業の日本支社に勤務した年月は、私にとっては、財務会計と経営企画に必要な全ての基本的な知識と経験を大いに与えてくれたと思っている。当時必死に学んだ米国簿記会計知識の基礎は教科書と、それとAmexの膨大な経理処理マニュアルであった。私にとっては、MBAコースの教科書のようにこのマニュアルを思い出す。

 

  日本支社の巨大ビルの各フロアーにいる人たちは、非常にオープンであり仲がよく、ランチ時間で他部署の人たちと食事をするのが通例であった。そこで、ジョブポスティング(社内採用)情報を共有したり、ここぞと思う人を異動候補としてスカウティングするのがマネージャーとしての仕事の一環でもあった。これも後年の自分に重要な経験となった。

 

   一方で、金融サービス業の雄ということで、各種社内プロセスには非常に厳格なルールが施工されており、ガバナンスやポリシー、守秘義務という言葉が一般的でなかった当時でも、社内資料には常にそれに対する意識付ある言葉や、社内資料に守秘義務のレベル分け(閲覧可能層の明確化、期間等)もあり、各種社内トレーニングも極めて精緻に開発、計画、実施されていたと思う。 忙しい人間ほど業務を与えろ(つまりそういう人たちほど効率的に結果を出せる)や、社内トレーニングを受けるのは優秀さの証(トレーニングは全社員向けではなく、選ばれし者、あるいは自ら強く希望する者だけが受ける)というのも厳しくも手厚い社員教育制度の発露であったと思う。 米国流の社員教育の手法を学んだ。

 

   社員は常に、AMEXという社名にも大いなるプライドを持っており、日本支社ビルの入り口にあるロゴマークの入ったモニュメントを見て、スーツにつけているロゴ社章を確かめて出社するような日々であった。外人役員も多く、幸運にも私は直属の上司は英国人(コントローラー)でその上は、米国人(CFO)という事で、英語力も体験鍛えられた。

 

   これがAMEX流なんだと思っていた激しい業務の日々、突然だが、米国本社で社内改革の旗が立ち上がり、一挙に米国本社だけでなく全子会社にもその号令が出てきたのには大いに驚いた。伝統を重んじる企業の中で大改革が実施されようなどと想像もしていなかったが、この動きは、やがて私にとっても重要な経験となった。後年、IBM社の改革をおこないそして今は世界最大のグローバル投資会社をリードするカーライル・グループの総統ルイス・ガースナーは、AMEXに当時確かにそこにいた。

 

物語(Story):

1    学業卒業後に、就職した日系上場企業から、初の外資系企業への転職。全てが驚きの日々であった。金融サービス企業の厳しさが中心で、各フロアーに入るにも入室カードを常に携帯していないと入れない。自分のフロアーにも忘れたら入れない。金庫室はじめ重要な部屋にも単独では入れない等々。帰宅時にようやく息をほっと吐くような感覚であった。


   しかし、非常に印象的だったのは、企業アイデンティティに対する情熱、ブランドストーリーは非常に精緻に語られており、物語のようで面白く感じた。これは外資系企業が日系企業よりも優れている部分だと思う。金融サービス業であるが、ブランディングや広告宣伝には非常に投資をしており、事業展開の戦略も大変面白かった。財務畑の人間であっても、広告宣伝部、カードビジネス、TCビジネス、旅行部等の優秀な人たちと議論できた経験も大きかった。


    仕事は非常に厳しく、巨大な財務部門でそれぞれに課せられた職責は多岐に渡り、経験が不足していようとチームリーダーとして数名を束ねねばならず、それぞれにキュービック(小さな壁のある小部屋)で仕事をするというまさに映画でしか見た事がない環境であった。激務であったが、非常に仲のよい職場であったと思う。NY本社に財務数値を報告する職責でもあったので、時差は非常に厳しく夜に本社対応というのも経験は大きかった。


   ある時に、米国本社から突然の業務指示が舞い込む。これまでのAMEXとは違う、高度に制度化された業務プロセスを徹底して明らかにし廃止/改善する、という大号令。

それまでもCRM (顧客対応処理方針)等は徹底しており、お客様からの御礼のメッセージが社内通知されたり、対応チームの表彰制度等と手厚いように思っていた。しかし、大改革をやるという号令。 このあたりの経緯は、その改革リーダーだったルイス・ガースナーの著書(IBM社の改善がメインだと思うが)や多くの取材資料にあると思う。この動きは凄かった。NY本社への財務報告をやる職責上、この影響は多大で、いきなり報告相手が変わったりその部署はもうないと突然言われたり。まさになにが展開されているんだという驚愕の日々だった。AMEXという企業が、自らの強さを維持するために、あえて全社改革を選択した現場だった。


   ルイス・ガースナーは北米責任者と聞いていたが、いや、これからは全社の改革をやるリーダーだ、等の話や噂があったが、その後の大改革の連続はまさに全社を巻き込んでのものだった。彼の主張はシンプルに、自分の職域で改革/改善すべき事があるならば遠慮なく報告をしてほしい。これまた米国流なストレートな表現だが、直接言って欲しいという趣旨。次から次に改革方針とその実施事項が発表される。凄まじさをみた。それまでの巨大組織が短期間で変わるのかという衝撃を身をもって体験した。今も、私にとっては大事に思う会社のひとつであり、CMをみても食事をしたあとの決済をしても、ロゴをみては心より応援したい企業だと思う。企業改善/改革の原体験である。

学び(Takeaway):

 伝統ある巨大企業ほど、自らを疑い、変革を選ぶ勇気が必要になる。

AMEXで見た改革の現場は、PMLが企業再建で「文化と制度の両立」を重視する原点である。

 

*2025年末、ルイス・ガースナー氏の訃報に接した。彼がAMEXやIBMで示した「変革への勇気」は、単なる歴史ではなく、今も混迷する組織を救うための生きた指針である。心より哀悼の意を表するとともに、そのイズムを次世代へ繋いでいきたい。